2021/09/30

「木綿」は百姓の至宝

「木綿」は百姓の至宝

喜田川貞守著『近世風俗史』十九之巻(染織)に、「木綿」の項があります。

近世幕藩体制下の庶民においては、「木綿」は、どのように受けとめられていたのか、『近世風俗史』をてがかりに考察してみましょう。

喜田川によると、「天正・文禄頃」(1573~1595)までは、「木綿」の衣類は、一般的ではなかったようです。「木綿」が本格的に一般化するのは、江戸時代に入ってからです。

「木綿」が一般化する前、日本においてどのような衣類が用いられていたのか・・・。

喜田川は、身分の高い人は、「絹布」を用い、多くのそうでない民衆は、「麻布」を用いていたといいます。麻は、夏は涼しくていいのですが、冬には、寒すぎます。それで、冬用として、「麻布をもって製したる刺児」を着て、「厳冬を凌ぎし・・・」といいます。

しかし、それは、冬用としては十分ではなく、「難渋」すること多く、厳冬に耐えて弱った体に、春・夏に流行る疫病に耐えることができず、「幾千万人」の人が「大患に罹り死亡」したといいます。

江戸時代に、木綿が普及することにより、「綿布の温袍(どてら)を着するときは、寒威の慄烈なるといえども、これに傷はるるの患ひあることなし。」といいます。

民衆の衣類の中に、「木綿」が入ってきたことは、「衣料革命」・「衣類革命」という言葉が文字通り当てはまる出来事だったのです(近世幕藩体制が長期政権であった理由のひとつにこの木綿による衣類改革があげられるかもしれません・・・)。

喜田川貞守は、「木綿」は、庶民・百姓の「至宝」であるといいます。

「岡山藩」の「渋染一揆」の原因になったとされる、「木綿」の「渋染・藍染」・・・、その「木綿」をあらわすいくつかの用語があります。それらの用語が、現在の「岡山藩」の「渋染一揆」の学者・研究者・教育者達によって、どれほど正確に使われているのか、筆者の目からみるとこころもとないものがあります。

しかし、このような表現をしますと、「岡山藩」の「渋染一揆」の学者・研究者・教育者の方々から、「岡山藩」の公式文書ではない、一般の庶民の書いた史料的価値のない文献を根拠に重箱の隅をつつくような議論をする・・・、と非難されるかもしれませんが、筆者、無学歴・無資格、歴史の門外漢であるがゆえに、「木綿」をあらわす多様なことばが気になります。

「木綿」・「種綿」・「繰綿」・「打綿」・「莚綿」・「小袖綿」・「きわた」・「わた」・「もめん」・・・、これらの言葉が何を意味するのか、定義の必要性に直面します。

「岡山藩」の「渋染一揆」が発生した時代、それらの言葉が具体的に何を意味していたのか、喜田川貞守著『近世風俗史』の説明を紹介することをもって、定義にかえたいと思います。

【木綿】「木綿」・「種綿」・「繰綿」・「打綿」・「莚綿」・「小袖綿」・「きわた」・「わた」・「もめん」の総称としての「木綿」。

【種綿】木綿の実を採りていまだ製さざる、これを種綿と云ふ。

【繰綿】繰りて種を去り除きたるを「くり綿」と云ふ。

【打綿】「くり綿」を製したるを打綿と云ふ。唐弓をもって打ち製す。

【莚綿】打綿を席(むしろ)のごとく延平したるを、京阪にて「むしろわた」と云ふ。

【小袖綿】「むしろわた」の小なるを三都とも小袖綿と云ふ。

【木綿・きわた】「種綿」・「繰綿」・「打綿」・「莚綿」・「小袖綿」を「木綿・きわた」と訓じ、蚕綿と別つ。

【わた】「きわた」を略して「わた」と云ふ。

【もめん】「木綿・きわた」を織りたるをもめんと云ふ。しかも「きわた」「もめん」とも木綿の字を用ふ。

喜田川貞守著『近世風俗史』によると、漢字の「木綿」は、三重定義のことばです。

【木綿】「きわた」と読み、綿織物になる前の段階の木綿の総称。
【木綿】「もめん」と読み、綿織物をさす。
【木綿】綿織物としての「もめん」と、その材料としての「きわた」の総称としての木綿。

『近世風俗史』の喜田川貞守曰く、「文意に因りてよろしく弁別すべし」。

「岡山藩」の「渋染一揆」の原因となったとされる「倹約御触書」、その第1条の「男女衣類可為木綿・・・」に出てくる「木綿」は、どのような意味合いの「木綿」として認識することができるのでしょうか・・・?

「倹約御触書」、その第1条の「木綿」は、衣類の材料としての「木綿」・・・? あるいは、「木綿」の反物・・・? あるいは、「木綿」製の手作りの衣類・・・? あるいは、「木綿」製の既製服・・・? 「岡山藩」の「渋染一揆」に関する史資料をたどっていきますと、そのいずれの解釈も可能になります。

『藩法集』によりますと、「岡山藩」が元禄9年(1696)に運上金を課した52品目の中に、「もめん」と「きわた」が出てきます。「木綿」という漢字表現は使われていません。原材料としての「木綿」と布反物としての「木綿」が、「きわた」・「もめん」と区別されてリストアップされているのでしょう。

「倹約御触書」の第9条(「在方え町方商人入込商ひいたし候義、三十一色之外ハ停止、三十一色之外之ものヲ商、又ハ無札之ものヲ及見候ハヽ荷物押置名元等相尋、早々御郡奉行え注進可申出候事」)に出てくる31色には、「木わた」のみ出てきます。「はただうく」(機道具)も出てきますが、反物としての「もめん」、衣類としての「もめん」は出てきません。

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